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「現代品質管理総論」メモ

現代品質管理総論 (シリーズ 現代の品質管理)

現代品質管理総論 (シリーズ 現代の品質管理)

ソフトウェア品質に関わる技術者の初歩的かつかなり遠大なテーマである「品質管理」と「品質保証」ってどう違うの?という疑問に、ズドンとくる腹落ちを賜れる著作。いかにも大学の講義で使いそうな装丁ですが、飯塚先生の軽妙かつちょっとだけシニカルな語り口のおかげで案外読みやすいです。読みやすい、だけで内容は濃すぎるので、しっかり時間を確保して読まれることをお勧めします。

「品質確保のための要件」

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品質技術者として製品、チーム、部門の品質向上を推進するにあたって、①動機 もある、③技術 も何となく整えられてきた、④管理 ⑤ひと もそれなりのリソースをもらっているけれど、どうしても ⑥推進 がうまく進んでいる気がしない時期が数年あったのですが、この図をみて衝撃を受けました。そう、②思想 がないのです。僕自身にも、組織にも。だから、何となく何かをやってる気はするけどこの方向で合っているのか確信が持てなかったんですね。「思想」というと大げさに聞こえるかもですが、見えている範囲(全社、事業部、チームなど)が仕事を成すうえでどんなことを大事にしていきたいか、それがどのように製品に織り込まれるのか(トレーサビリティ)辺りが合意できれば良いのかなと思いました。

品質保証の方法の進展

「検査重点主義」

 米国から近代的品質管理を学んだ第二次世界大戦直後。保証の対象となっている製品の集まり(ロット)に対して、その全部または一部の品質レベルを評価し、一定レベルに達していると判断されたものだけを出荷する。もしかしたら、農業などでは、いまもここに重点を置いているかもですね。

「工程管理重点主義」

 検査には作ってしまった不良品を除く機能しかない。はじめから良品を作るほうが良いに決まっている。ということで、1950年代から製造工程をきちんと管理することによってはじめから良いものを作ろうという考えが広まった。「品質は工程で作り込め」の時代。

「新製品開発重点主義」

 1960年代にはいると、いくら製造工程が整然としていても、不良率がどれだけ低くても、結局売れなければ意味がないよね、という考えが生まれた。真の品質を保証するためには、まず良い製品仕様を作ることが重要である。また、製造工程でのトラブルを分析してみると、その原因の多くは上流工程である生産準備や設計・開発にあることが明らかになってきた。こうして「品質は企画・設計で作り込め」という言葉が生まれた。

経営における三つの管理

こうして日本的品質管理は, 品質を中核とする経営アプローチでありながらも経営管理システム一般に対して重要な概念や方法論について発言するようになり, これがアメリカの品質管理, 経営管理に大きな影響を与えたのである
P.59 3.品質のための管理システム 3.2 管理システムのモデル

静的管理
 タテの管理:日常管理(分掌業務管理、部門別管理)
 ヨコの管理:機能別管理(経営要素管理、管理目的別管理、部門間連携)
動的管理
 方針管理(環境適応型全社一丸の管理)

日常管理

業務目的の明確化、業務プロセスの定義、業務結果の確認と適切なフィードバックを標準化を基盤として実施する。それぞれの部門で日常的に当然実施されなければいけない分掌業務について、その業務目的を効率的に達成するためのすべての活動の仕組みと実施に関わる管理。

機能別管理

品質、コスト、納期、安全・環境などの機能を軸とした部門をまたがるプロセスを想定し、そのプロセスを全社的な立場から管理しようとするもの。意味的には「経営要素」のほうが近い。

方針管理

環境の変化への対応、自社のビジョン達成のために通常の管理体制(日常管理の仕組み)の中で満足に実施することが難しいような全社的な重要課題を、組織を挙げてベクトルを合わせて確実に解決していくための管理の方法論。

静的管理を基本としつつ、変化への対応を余儀なくされる昨今の経営ではより動的管理(方針管理)のウェイトが高まることは想像に難くないです。方針管理については別途まとめたいと思います。

変更管理

本記事の前節からいきなりスケールダウンしますが、気になったのでメモ。

変更によるトラブルには

(a) 変更の目的そのものが達成されない
(b) 品質の他の側面やコストなどに悪い影響を及ぼす
(c) 関連して実施すべき変更がすべて列挙されずに抜けが起こる
(d) 変更の実施が徹底せず, 実施されなかったり, 一部のみ実施される
(e) 変更指示内容の誤り, 情報伝達の不備, 変更指示の受け取り側の誤解などのため, 意図通りの変更が実施されない

などがある.
P.128 5.品質保証機能 (6) 変更管理

本記事の読者のかたには「何をいまさら」感があるかもですが、一部の分野ではテストの重心がリリース時点での品質の充足から安全な変更に移りつつある現代において、改めてそれぞれの項目に対してどんな施策が打てているかを振り返っておきたいと感じました。

その他グッときた記述

私は早い時期から, 品質管理というものが, およそ目的達成のための筋の良い哲学と優れた方法論を与えていると感じるようになっていた.
P.iv まえがき

標準化は, 改善の基盤のみならず, 実は独創性の基盤でもある.
P.48 品質管理の基本的考え方

改善する=何かを良くするためには現状を正しく認識する必要がある、ということ。
独創性を発揮するための物理的、精神的リソースを生み出すための重要な基盤である、ということ。

形だけの TQM を導入して苦労する例を分析してみると, 問題解決を軽視していることに気づく. (略)二つのことが忘れられているからである. 第一は,方針管理を導入する前に日常管理の仕組みができていなければいけないこと,第二は, 管理を実施していく上での問題解決が基本であることの二つである
P.164 問題解決